オランダのSARは日本の障害者の性の現状にどんなヒントを与えるか?

カンドロップさんが受けているセックスボランティア

「距離感が近くなりすぎて恋愛感情を持つといけないから、ふたりの女性を交互に呼んでいるんです……」話し始めて三十分が過ぎたころ、アッド·カンドロップさんがゆっくりと語った。そして、電動車いすに座ったまま、私の顔をやわらかいまなざしで見つめた。

ここはオランダの首都アムステルダムの隣のアムステルフェーン市にある障害者施設「アムステルラーデ」。生後九力月で脳性麻痺になったカンドロップさんは、幼いころから三十六歳までこの施設に住んでいたが、いったん独立して、二〇〇〇年に戻ってきた。

カンドロップさんが呼ぶふたりの女性は、セックスの相手だ。恋人ではない。ひとりでは自分の性欲を処理できない障害者に、セックスや、場合によっては添い寝などの相手を有料で派遣している団体「SAR」(選択的な人間関係財団)に所属している女性たちだ。五十代と三十代の女性を月に二回呼び、年配の女性とは、もう五年も関係を続けている。思うように体が動かせないため、女性のリードでセックスは進む。

性介助者を好きになってしまう可能性もある

「私にとってセックスは、日常の緊張をほぐす手段なのです。ふたりとの今の関係に満足しています」とカンドロップさんは言う。女性を交互に呼べば、恋愛感情は抑えられるのだろうか。どちらかひとりを好きになってしまう可能性もあるのではないだろうか。そんなことを思っていると、「それとね」と、カンドロップさんがゆっくりと、五十二歳とは思えない張りのある低い声で続けた。「彼女たちだって、そこまで頻繁に、私とセックスしたくはないでしょうから」それまで淡々と話していた表情が、心なしか翳りを帯びた。

日本では、障害者の性について

日本では、障害者の性は長い間タブー視されてきたといっていい。いや、障害者にも性欲があるというあたりまえのことさえ、一般には十分に認識されてこなかった。それが最近になって、少しずつ語られるようになってきた。しかし、これまでの「セックスボランティア」が必ずしもうまくいっているわけではない。ボランティアを行うほうも、受け手の障害者も、皆が悩みながらの試行錯誤だった。感情の処理ができなかったり、恋愛感情が芽生えて妨げになったり、周囲の理解が得られずに苦しむことも多かった。

オランダのSARは日本の障害者の性の現状にヒントを与える

第一章の竹田さんや第四章の真紀さんに性介助を行う佐藤さんや、インターネットでセックスのボランティアを募集していた葵さんからも、たびたび「オランダではセックスボランティアがあるから日本でも」と聞かされ、オランダに先進的な団体があることを知った。「SAR」といい、厳密には有料だからボランティアと言えないかもしれないが、もう二十年も活動しているという。そこには日本の障害者の性の現状を打開するヒントがあるのではないか。SARの現状を知り、サービスを受けている人の声を聞きたい。その思いは日に日に大きくなっていき、私は、 二〇〇二年の初冬、オランダへと向かった。

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