二級の聴力障害者である女子大生は、障害者専門の風俗嬢になろうとしている

自由の女神が欲しいよ!

さっきから彼女は手のひらに「人」の字を書いて、飲み込んでいる。緊張する彼女に、「人という字を手のひらに書いて飲んだら大丈夫かもよ」と私が言うと、「そんなの効かないよ~」と答えながらも、「でも、一応ね」と手のひらの文字を何度も飲み込み、大きく深呼吸をした。それから、「目覚まし時計、ゴミ袋、洗浄綿、ローション、バスタオル、コンドーム、そしてホワイトボード」の「七つ道具」をかばんの中に点検する。歯磨きは途中のドライブインですでに済ませていた。

待ち合わせ場所の両国を出発したときは元気いっぱいだった。車中では、ダイエットのためにプリンをあきらめたことや、体育の授業で倒れたときにかっこいいと憧れていた柔道部の先輩がおぶってくれて、携帯電話のメールアドレスを交換したことなどを嬉しそうに話していた。私が「仕事でニューョークへ行くからお土産を買ってくるよ」と言うと、「じや、自由の女神が欲しいよ!」と素っ頓狂な声をあげた。それから、空を見上げて、「わあ、あれ一番星だよね」とはしゃいでいる。大きな目をくりくりさせながら、表情は明るかった。

「緊張するよお」と彼女は何度も不安を訴えるようになった

しかし、出発から三十分、高井戸インターを通りすぎるころから、「緊張するよお」と彼女は何度も不安を訴えるようになった。「お客さんかっこいい人だといいね」私はホワイトボードに書いた。彼女は「うん、そうだと嬉しいな」と真顔で答えている。八王子第二インターを降りた頃からは、無口になり、とうとう顔を背もたれに埋めてしまった。「やっぱりそんなに不安なもの?」と私は尋ねる。「どんな人かなあって……。相手が障害者だからってのもあるかも」目的地の前に着くと、運転をしていたオーナーが車を止め、ホワイトボードに、「ササキさん、脳性麻痺、言語障害」などの情報を書いていった。「お店の常連客。だけど、それは言っちやダメ」「お金は先に出してもらうこと」「ゴミは持ち帰るように」「出るときにメール。この辺にいると思うけど」「仕事という事を忘れずに。でも、楽しくやる事。ユリナちゃんがつまらないと、相手も楽しめないです」

それから、「おしっこは大丈夫?」と書くと、彼女·ユリナちゃんは「うん」と大きくうなずいた。それでも、「不安だよおぉぉ」と大声で訴え、今にも泣き出しそうだ。オーナーは「ただのスケべオヤジ」とホワイトボードに文字を書き足し、ニヤッと笑った。そして、「じゃあ行ってくる」と意を決したように、彼女は車を下りた。今日は彼女の初仕事だ。「ユリナちゃん」という名前のデビューの日でもある。東京近郊の県に両親と一緒に住んでいる二十歳の大学二年生。青いストライプのシャツに髮の毛を止める飴色のクリップをつけ、ブーツカットのブルージーンズをはいている。ごく普通の大学生にしか見えない。上向きの鼻にくりくりした丸い目、下唇がぽってりしている。

彼女は今、障害者専門の風俗嬢になろうとしている

彼女は今、障害者専門の風俗嬢になろうとしている。所属しているのは「enjoy club」という障害者専門のデリバリーヘルスだ。そして、彼女も耳がほとんど聞こえない一種二級の障害者である。障害者専門風俗店というものができたのはいつ頃からだろうか。二〇〇〇年二月十七日付けの朝日新聞西部本社版に、こんな記事が出ている。

手や足に障害のある人を対象に、女性コンパニオンが性的サービスを提供する―こんな新手の風俗店が福岡市と東京で開業した。客層を身体障害者に限った店は例がなく、店側は「タブー視されてきたニーズにこたえた」としている。「身障者の自由を広げる試み」と評価する福祉関係者がいる一方、身障者団体は「障害者を食い物にした商売」と反発する。風俗業自体が女性を踏み台にしている点にも疑問の声がある。福岡市中央区の「ビアン」(津野喜樹代表)と東京都渋谷区の「エンジェル」(結城薰代表)。ともに改正風営法に基づく無店舗型性風俗業として警察に届け出て、ビアンは昨年十二月一日、エンジェルは一月十七日に開業した。

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