女性障害者である奈津子さんはどうしてホストを呼ぶことを決意した?

女性障害者である奈津子さんの「王子様」

「王子様」、つまりホストを呼んでいる女性、柏木奈津子さんもこの障害者割引を利用しているひとりである

彼女は二十六歳で、先天性の股関節脱臼という障害を持っている。子どものころから両足の長さが違った。骨を削る手術などによって、歩くことがてきるようになる人もいるそうだが、彼女は生まれつき白血球が少なく、そういった手術も難しい状態なのだという

入退院を繰り返していたため、高校の出席日数は足りなかったが、それでもなんとか卒業はできた。その後は、体調が悪いので仕事にも就けなかった。実家で両親と一緒に暮らし、一日中家にいる。

父親は不動産賃貸業を営み、家には運転手もいるという経済的には恵まれた家庭だ。運転手に連れて行ってもらって、時々外に出ることもあるが、足の痛みが強いときには難しい。また、雨の日など天候が悪いと体調を崩して、寝たきりになる。週二、三回、病院へ痛み止めの注射を打ちに行くのが外出らしい外出だ。

さらに、体力的なことだけではなくて、精神的にもあまり外出は好きではない。外に出ると、 思わず目をつぶりたくなる光景に出くわすからだ。

「諦めないといけないことが多いのが障害者です。外に出ると悲しい。同じ年齢の女性がキレイな服を着て、歩いている。私は足が悪くて、オシャレもあまりできない。どうして自分はこんな容姿なのかと悲しくなる。食べ物でも味を一生知らなければ、その味を求めて苦しむこともない。 性のことも自分とは別の世界のことだと諦めていました

それでも、性に対する憧れはあった。やはり女性として生まれてきたからには男性と話をしてみたい、セックスしてみたいという気持ちは強くあった。

「女性であれ、障害者であれ、人間は誰でも性欲はあると思います。恥ずかしいお話ですが、私も自分で処理はしていました。だけど、やはりそれでは満たされない部分もあって。とはいえ、その性欲をどうしていいかわかりませんでした」

そして、二十五歳のときに初めてホストを呼ぶことを決意する

奈津子さんと「王子様」の出会う

学生時代から障害者ボランティアサークルに参加していた経験のある二十五歳の青年、タカハシさんは、障害者に接し慣れているせいか、奈津子さんの障害についても抵抗がないような素振りで、ひとりの普通の女性として扱ってくれた

「慣れていない人だと、車いすというだけでびっくりしちやって、『どうしてそんなふうになっちやったの』って尋ねてくるんです。私は普通の話がしたいのに、ほかの世界の人みたいになっちやう。その時点で壁が出来てしまうんです。でも、タカハシさんとは普通の話ができます。もし、変な方だったら二度目はなかったと思います。しかし、タカハシさんは女性の外見を気にされない方で、会うと心が安らぎます。セックスをしなくても、ただ会っているだけで楽しい。声を聞いただけで嬉しい。手を握ってくれるだけで幸せです。彼は信頼できるし、身近に感じられる人です」

「恋をしているんですね」と私は言う。奈津子さんは少し間を置く。

結婚しない奈津子さんの考え

「ホストを呼んでいることは父も母も知っています。この子はこんな体だから一生恋愛も結婚もできないだろう。不憫だからって話しています。やはり結婚はしないと思います。私は自分のことだけで精一杯です。例えば、好きな人のためにご飯を作ることも、洗濯することもできません。好きな人の悲しい顔を見るのが一番辛いですよね。愛している男性にずっと一生車いすを押してもらうのは忍びないんです。それに、もし子どもができてもなにもしてあげられません。親が病気になっても看病さえできない。病院へ連れて行くこともできない。私にはなにひとつできないんです」

奈津子さんは沈んだ声で、しかし、淡々と話す。私は彼女の気持ちを思うと、胸が苦しくなった。

恋愛や結婚は諦めて、彼女はホストを呼ぶという選択をした。しかし、お金で性を買うことに対してはどう思っているのか。男性よりも女性のほうが抵抗があるのではないだろうか。「やっぱり同じ人間なんです。障害のある人でも感情はある。本当はこうやって性をお金で買うことは悪いことなのかもしれない。でも、私には他に可能性がなかった。どんな方法であれ、こういう機会があったことは良かった、とこれからもずっと思えるでしよう。恋愛や性の機会がない人もいるんです。性の商品化とかなんとか、周りの人は、いけない、いけない、と言っているかもしれないけれど、少しでもその人が笑える可能性があるのなら、許されてもいいんじやないかと思います」

障害者の性に関するホームぺージを作成し、性のボランティアを募集する

葵さんと性的ボランティア小百合さんのこと

それから一年ほど経った後、ふたりは同じ部屋で会った。葵さんからはこんなメールが届いていた。「厚かましいのですが、口でしていただけないでしょうか」小百合さんは口での愛撫はできないと答えた。しかし、当日ふたりは性器の挿入を試した。葵さんからの強い希望があったからだ。性器の愛撫をしている最中に葵さんが小百合さんに挿入させてくれるよう頼んだのだ。だが、車いすの手すりが邪魔になってなかなか挿入はうまくいかない。先端だけ入った途端、葵さんは射精した。

葵さんは行為の最中に小百合さんの唇にキスをしようとした。「それはできない」と小百合さんは拒絶した。その後、ふたりは、小百合さんの主宰するパソコンのボランティア団体で会うことはあったが、性的な関係を持つことはなかった。

葵さんはその後、新しいセックスボランティアを求めている

葵さんはその後、新しいセックスボランティアを求めて、インターネットの掲示板に性のボランティアを募集する書き込みを始め、三年後にようやく章頭に書いたように池袋でOLからマスターベーションの介助を受けることができた。さらに、障害者の性に関するホームぺージを作成し、二〇〇二年からは「セクシャリティー·バリアフリー」と名づけたものにリニューアルした。掲示板では、他の障害者が性のボランティアを募集したりもできるようになっている。

インターネットでの性のボランティアの募集

「二十一歳、男性。手が上手く使えないからオナニーも出来ずに溜まってます!チンコは元気なのに発散できないのは辛いです。エッチな女性の方、寂しがり屋の方、SEXフレンドも大募集してます。持久力には自信あり(笑)!障害持ってても、遊びたいし、気持ちいいことしたいです」

「五十七歲。脊損。男子。十六歲のとき怪我をして以後車いす。障害者は恋愛ができない、してはいけないと頑固に信じていた。仕事に没頭して、自分の本心を棚上げにしてきたつけがまわってきたような、空虚感に襲われてすこしうろたえている。今心から恋愛がしたい。遅すぎるということはないでしょうか?」

だが、性のボランティアをしてほしいと希望する人も、してもいいと申し出る人も、ほとんどが男性ばかりで、あまりうまく機能しているとは言いがたかった。いずれにしても、葵さんを癒してくれる小百合さんに代わる性のボランティアは見つからなかった。

手足が不自由な障害者のマスターべーションの介助はどうだった?

手足が不自由な障害者の介助者

竹田さんが風俗へ行くといっても、もちろんひとりで行けるわけではない。無償で手伝ってくれる介助者が何人かいる。彼が暮らす施設の社会福祉士である佐藤英男さんはそのひとりだ。四十五歳で、人の良さそうな丸い鼻をしている。

竹田さんを外出させることは非常にリスクが大きい。しかし、佐藤さんは、「もしなにかあった場合は私の責任問題になるでしょうね。それなのになんでやるかって?楽しいんですよ。最初こわごわと自信なさそうだった障害者が、晴れ晴れしたいい顔をしてお店から出て来る。その顔を見るだけで満足なんです」となんでもないことのように話す。

マスターべーションの介助

店内までの移動の介助だけではなくて、着替えや入浴も手伝わなくてはいけない。行為の間は待合室で待ち、その後、一緖に帰る。動作のひとつひとつに相当な時間がかかるので、どうしても時間が長くて、料金も高いコースを選ばざるを得ない。佐藤さんは、手足が不自由な障害者の「手」となってマスターべーションの介助をすることもある。「おおっぴらに語られていないだけで、身障者の介助の現場では多くの人がしていることですよ。 べつに珍しいことではありません」

男性が男性のマスターべーションを手伝う。覚悟がないとできないことだと思うが、佐藤さんは「いや、なんてことはありませんよ。特別なことだと思ったことはありません」と言う。そういう自然体で気負うところがないからなのか、佐藤さんはなかなか言い出しにくい性の悩みについても多くの障害者から相談を持ちかけられている。

竹田さんはどうして風俗店へ行く決心をしたのか

竹田さんは佐藤さんに風俗店に連れて行ってもらうが、マスターベーションの介助だけはしてもらわない。なぜか。竹田さんはビデオでこんな言葉を語っていた。「介護を受けるってことは僕らにとっては最大の屈辱なんだ。我慢してるよ。生きるためにね」ところで、五十一歳までセックスの経験がなかった竹田さんは、どうして風俗店へ行く決心をしたのだろうか。「おつきあいしていたひとがなくなったから」震える指で文字をひとつひとつ押していく。「じこで」、「どれくらいおつきあいしていたんですか?」、「ジィー……ヒィ……」文字盤ではなく、全身を使って言葉を絞り出そうとする。「ジュー、ゴ……」、 「十五年ですか?」そう聞くと、竹田さんは親指と人さし指でOKマークをつくり、ニッコリ笑った。

障害者夫婦のセックス、また障害者夫婦の性介助はどう行われればいいのか?

障害者のセックスというタイトルのビデオ

取材をしている間、何人もの人から、「このビデオ見た?」と聞かれた。それは、「愛したい愛されたい〜障害者のセックス」というタイトルのビデオで、アメリカのニューヨーク大学医学センター·リハビリー研究所が製作したものだ。さまざまな障害を持つカップルが出てきて、性について語る。セックスのときに人工肛門をどうするか。失禁の問題はどうするか。勃起できないときはどうするのか。それだけではない。実際にそのカップルが裸になり、性行為を行っている場面も映し出されている。ぼかしも入らない。

どうしてここまであからさまにするんだろう。そう思う半面、私は胸を打たれていた。ビデオのなかの男性が語る。「ぼくは、はっきり自分の気持ちを言う。ここを触ってほしいとか」パートナーの女性も答える。「私たちはお互いにどんなことが好きで何が嫌いか、上手に知らせ合う。私たちの知らせ合うテクニックは健常者夫婦よりはるかに上手よ」

こんなふうにお互いの要望をコミュニケーションできているカップルがどれだけいるだろうか。感じているふりをしたり、一方的な快楽を押しつけたり、セックスをしたいということさえ伝えられなかったり……。

障害者カップルの性の介助

ビデオのなかで別の女性はこう語る。「私は結婚していてもマスターべーションします。ダン(彼女のパートナー)もします。いい気持ちになれるし、自分のことをより理解できるようになるから」このほかに、重度の障害を持つ夫婦の服を脱がせ、ベッドに連れて行く介助者も登場する。約二十年前のビデオだが、いまも支持されているという理由がわかる気がした。ビデオのなかで語られる、性に対する姿勢が根本的に違うのだ。彼らは性と真正面から向き合い、そのうえで積極的に楽しんでいる。いままでは、障害者がセックスの相手を見つける大変さを綴ってきた。しかし、もしかするとカップルになってからのほうが、性の問題は大きくのしかかってくるのかもしれない。

障害者カップルの性の介助はどうしているのだろうか。介助者にはなかなか言い出せない人が多いと聞く。ビジネスとして行っている例は、ないわけではない。例えば、前で紹介した都内にある出張ホストクラブ「セフィロス」では、障害者夫婦の性介助も行っている。オーナーの吉良仁志さんはこう話す。「障害を持ったご夫婦からの依頼がきっかけで、サービスを始めました。障害者割引があり、通常の半額の一時間五千円で行っています。月に二、三件の依頼があります」

ただし、介助という理由だけではなくて、三人でのセックスを楽しみたいがために、ホストを依頼してくる夫婦もいるそうだ。どこからどこまでを割引の対象にすればよいのかを、迷っているのだという。

障害者にセックスするためのお金を市役所からもらうことができる

障害者にセックスするためのお金は市役所が出す?

月に三回年三十六回、セックスするお金を市役所からもらっています。相手はSARから派遣される女性で、年齢は四十歳くらいかな。ときどき、違いを比べるために、売春婦を利用することもあります」

五十五歳のハンス·ピックさんは食べ物の話をするかのように、あっけらかんと話をし始めた。電動車いすで移動し、思うように動かない手を使い器用に紅茶を入れてくれる。私は、障害者とセックスする相手を派遣する団体であるSARの会長マーガレットさんから、 「SARを利用する障害者に対して、三十六の自治体がセックスの助成金を出している」という話を聞いていた。障害者にセックスするためのお金を市役所が助成金として出すなんて、日本では到底考えられない。

ピックさんはSARから紹介された女性との関係をずっと続けている

ピックさんは、その助成金を出している市のひとつ、オランダ南部にある古い港町、ドルドレヒト市の障害者用のアパートに住んでいて、月三回のセックス助成を受けている。五年前に、女友だちから助成金があることを聞き、利用することにした。

しかし、助成金はSARだけが対象ではないのだろうか。「売春婦も試す」とはどういうことかと尋ねると、ピックさんは「なあんだ、そんなこと」というように笑顔で答えた。「SARでも売春婦でも新聞広告で募集しても、どれでも自由です。でも、私はSARから紹介された女性との関係をずっと続けています。売春婦は時間が短くてあっさりしているが、SAR の女性は一時間半と長い時間を取ってくれるところがいい。それに、彼女とは何度も会って、一緒に紅茶を飲んでいる。私の友達みたいに思っています。まあ、だけど、どちらもそんなに大きな差はないよ」

多くの介助者はこの仕事で生計を立てている

「その女性のことを気に入っているんですか?」
いえ、SARが推薦するのは、住んでいる地域が近い人が多いんです。私が住むドルドレヒト市だと、その女性を毎回推薦されます。特に、不満がないので、彼女でいいかなあと
そして、こう続けた。
「SARもしょせん売春ですから」
「SARは否定していますよ」

私はマーガレットさんの顔を思い出していた。
だれとでもベッドに入るんだから売春だよ。少なくとも、私のところに来る女性はほかに本業も持っておらず、この仕事で生計を立てています
「自治体の助成金をもらっていることに抵抗はありませんか?」
「このことは、数人の友人しか知りません。SARの女性が服を脱がせて、また元通りに着させてくれる。彼女が帰れば、だれにもわからないでしょう。介助者は女友だちが来ていると思っているみたいですよ」

オランダのSARは日本の障害者の性の現状にどんなヒントを与えるか?

カンドロップさんが受けているセックスボランティア

「距離感が近くなりすぎて恋愛感情を持つといけないから、ふたりの女性を交互に呼んでいるんです……」話し始めて三十分が過ぎたころ、アッド·カンドロップさんがゆっくりと語った。そして、電動車いすに座ったまま、私の顔をやわらかいまなざしで見つめた。

ここはオランダの首都アムステルダムの隣のアムステルフェーン市にある障害者施設「アムステルラーデ」。生後九力月で脳性麻痺になったカンドロップさんは、幼いころから三十六歳までこの施設に住んでいたが、いったん独立して、二〇〇〇年に戻ってきた。

カンドロップさんが呼ぶふたりの女性は、セックスの相手だ。恋人ではない。ひとりでは自分の性欲を処理できない障害者に、セックスや、場合によっては添い寝などの相手を有料で派遣している団体「SAR」(選択的な人間関係財団)に所属している女性たちだ。五十代と三十代の女性を月に二回呼び、年配の女性とは、もう五年も関係を続けている。思うように体が動かせないため、女性のリードでセックスは進む。

性介助者を好きになってしまう可能性もある

「私にとってセックスは、日常の緊張をほぐす手段なのです。ふたりとの今の関係に満足しています」とカンドロップさんは言う。女性を交互に呼べば、恋愛感情は抑えられるのだろうか。どちらかひとりを好きになってしまう可能性もあるのではないだろうか。そんなことを思っていると、「それとね」と、カンドロップさんがゆっくりと、五十二歳とは思えない張りのある低い声で続けた。「彼女たちだって、そこまで頻繁に、私とセックスしたくはないでしょうから」それまで淡々と話していた表情が、心なしか翳りを帯びた。

日本では、障害者の性について

日本では、障害者の性は長い間タブー視されてきたといっていい。いや、障害者にも性欲があるというあたりまえのことさえ、一般には十分に認識されてこなかった。それが最近になって、少しずつ語られるようになってきた。しかし、これまでの「セックスボランティア」が必ずしもうまくいっているわけではない。ボランティアを行うほうも、受け手の障害者も、皆が悩みながらの試行錯誤だった。感情の処理ができなかったり、恋愛感情が芽生えて妨げになったり、周囲の理解が得られずに苦しむことも多かった。

オランダのSARは日本の障害者の性の現状にヒントを与える

第一章の竹田さんや第四章の真紀さんに性介助を行う佐藤さんや、インターネットでセックスのボランティアを募集していた葵さんからも、たびたび「オランダではセックスボランティアがあるから日本でも」と聞かされ、オランダに先進的な団体があることを知った。「SAR」といい、厳密には有料だからボランティアと言えないかもしれないが、もう二十年も活動しているという。そこには日本の障害者の性の現状を打開するヒントがあるのではないか。SARの現状を知り、サービスを受けている人の声を聞きたい。その思いは日に日に大きくなっていき、私は、 二〇〇二年の初冬、オランダへと向かった。

知的障害者の佐々木真由美さんは、セックスしたくない理由は?

キスはしたいけど、セックスはしたいと思わない

「キスはしたいけど、セックスはしたいと思いません」二十五歳の佐々木真由美さんは、食品メーカーに勤める軽度の知的障害を持った女性だ。グレーのフレームの眼鏡をかけた涼しげな目元と、小さな口元が印象的である。真由美さんには交際している恋人·今村浩司さんがいる。三十三歳の男性で、ごみの仕分けの仕事に就いている。彼も知的障害者だ。障害者のための自立支援施設に暮らしている。ファッションはいつもふたりで話しあって、コーディネートを統一している。

彼らは交際五年目だが、今まで一度もセックスは最後までしていない。浩司さんが週末に実家に帰ったときに、二階の部屋で裸になって互いの体を触りあうだけだそうだ。セックスは真由美さんが拒んでいる。真由美さんは言う。「本当は私も入れて欲しいんだけど、〝さわりっこ〞の途中でもうやめようと言います。もしも、私が入れて欲しいって言えば、彼は我慢できなくなっちゃうから。彼に触られることで先に私がイッて、それから私の手で彼がイキます」浩司さんに辛くはないのかと尋ねると、曖昧な笑顔を見せるだけだ。

真由美さんはどうしてセックスをしたくない

真由美さんはどうしてセックスをしたくないのだろうか。「子どもができたら、お母さんにも、彼の両親にも、職員さんたちにも申し訳ない。お母さんには、いつも『子どもができたらどうするの。もし子どもができたら、もうあんたなんて知らないからね』と言われています」妊娠の心配があるなら、避妊をすればいいと思うのだが、「コンドームをしていても、破けたら困るから」と真由美さんは心配なのだそうだ。

それほどまでに抵抗を見せる真由美さんだが、実は経験がないわけではない。これまでに、六人の男性と交際し、そのうちの三人とセックスをした。一方、浩司さんは経験がない。真由美さんは、セックスを拒否していることで、浩司さんが他の女性と浮気しないか心配なのだという。

妊娠の心配以外にも、抵抗を持つには何かきっかけがあった

妊娠の心配以外にも、抵抗を持つには何かきっかけがあったのだろうか。「以前、お母さんにセックスしたことを打ち明けたことがありました。隠しておくのが嫌だったから。そうしたら、ものすごく怒られました。結婚するまでしちゃいけないって。お母さんに見捨てられたら、私、生きていけないから」

真由美さんが中学生のときに父親は白血病で亡くなり、母親と妹と三人で暮らしてきた。近いうちに、ふたりは結婚したいと望んでいる。しかし、両方の家族の反対があり、とりあえず同棲することにした。ふたりはいつか子どもが欲しいと願っているが、「子どもは絶対に作っちゃだめだ」とどちらの家族からもきつく言われているそうだ。同棲をしたらセックスするのかを尋ねると、真由美さんは言い切った。「いいえ、しません。一緒に住んでも、正式に結婚するまで絶対にしません」

女性客の指定した場所に出張し、性的サービスを行う出張ホストクラブ

明日は恋する王子様がやってくる

前日は一日中、鏡に向かう。ネイルアーティストを呼び、色とりどりに爪を塗ってもらう。丁寧に紅を引き、目の上には今年流行の色を入れる。この日のために雑誌で最新のメイクを研究している。それからは、何度も「おかしくない?」と周りの人に確かめる。外出する機会が少ないので、これでいいのかどうか世間の基準がよくわからず、不安なのだ。念入りに風呂に入り、着る服を選ぶ。明日は恋する王子様がやってくる。

彼は午後四時ごろ、家にやって来た。両親も公認の仲だ。まずは、ゆっくりと一緒に風呂に入る。湯船につかり、近頃あったことやドラマの話などとりとめのないことをのんびりと話す。スポンジに泡を立てて、丁寧に体を洗ってくれる。風呂から出ると、体を拭いてもらい、お姫様抱っこで、ベッドまで運んでもらう。彼は力持ちだから、軽々と持ち上げてしまう。そっと彼女の手を取り、優しく髪をなでる。ふたりは時間をかけて、ゆるゆると結ばれる。

いつも片想いで終わり、恋が実ることは一度もなかった

彼女は王子様のことが大好きだ。手を握ってもらうだけでも嬉しいし、顔を見るだけでもホッと落ち着く。今まで出会ったなかで、最高の男性だ。これまでにも恋をしたことはあった。しかし、いつも片想いで終わり、恋が実ることは一度もなかった。テレビドラマを見ても、「こんな世界があるんだ」と遠い異次元のことのように感じていた。

「今度はどこかへ遊びに行ってみようよ」彼が低い声でささやく。一緒に出かけられたら、どんなに楽しいだろうか。胸は高鳴る。そして、あっという間に二時間がたってしまった。週に一、二回しか会えないのがとても寂しい。「またね」爽やかに言葉を残して、王子様は帰って行く。魔法は解けてしまった。彼女の王子様、それは出張ホストである。

彼女の王子様、それは出張ホストである

出張ホストクラブというのは、男性が女性客の指定した場所に出張し、性的サービスを行う風俗店のことを指す。もちろん、デートだけで終わる人もいるかもしれないが、通常の店舗型のホストクラブとは違い、客はあきらかに性的サービスを求める女性が多い。

都内で営業する「セフィロス」のホストを指名するためのファイルを見てみると、年齢や顔写真などと一緒に、「得意技」や「性器の長さ〇〇センチ」などという項目がある。十八歳から五十七歳まで約二百人のホストの登録があり、ほとんどが本職を持っている。ホストの登録料は三万円。四年間登録していても、一度も仕事のない人もいる。このホストクラブが特異なのは、障害者の客には割引があることだ。通常は一時間一万円の料金が、障害者であれば一時間五千円になる。

障害者のお客さんの場合は、店の取り分はゼロです

オーナーの吉良仁志さんによると、「普段は店とホストと分け前は半々でやっています。ですが、障害者のお客さんの場合は、店の取り分はゼロです。出張ホストはあまり人に誉められるような商売ではありません。こんなことくらいしかできませんが、社会のために少しでも役に立てばと思い、障害者への割引を始めたんですよね。なんていうか、人生の帳尻を合わせている感じでしょうかね

吉良さんにはホストの経験はない。大分県の高校を卒業後、東京でとび職の仕事をしていた八年前にその仲間とホストクラブを始めようと思いついた。ホストのイメージとはほど遠い、アウトドア派といったいでたちである。実際、釣りが趣味で、世界のあちこちに釣りをしに行っている。店のホームぺージの壁紙には、ホストクラブにはあまり似つかわしくないような、かわいらしい魚のイラストが使われている。口コミだろうか。あるときから、障害者の客が増えてきた。しかし、障害者に接した経験のないホストではなかなか対応しきれない。そこで、知り合いだった障害者ボランティアの経験のある男性をスカウトしてきた。

二級の聴力障害者である女子大生は、障害者専門の風俗嬢になろうとしている

自由の女神が欲しいよ!

さっきから彼女は手のひらに「人」の字を書いて、飲み込んでいる。緊張する彼女に、「人という字を手のひらに書いて飲んだら大丈夫かもよ」と私が言うと、「そんなの効かないよ~」と答えながらも、「でも、一応ね」と手のひらの文字を何度も飲み込み、大きく深呼吸をした。それから、「目覚まし時計、ゴミ袋、洗浄綿、ローション、バスタオル、コンドーム、そしてホワイトボード」の「七つ道具」をかばんの中に点検する。歯磨きは途中のドライブインですでに済ませていた。

待ち合わせ場所の両国を出発したときは元気いっぱいだった。車中では、ダイエットのためにプリンをあきらめたことや、体育の授業で倒れたときにかっこいいと憧れていた柔道部の先輩がおぶってくれて、携帯電話のメールアドレスを交換したことなどを嬉しそうに話していた。私が「仕事でニューョークへ行くからお土産を買ってくるよ」と言うと、「じや、自由の女神が欲しいよ!」と素っ頓狂な声をあげた。それから、空を見上げて、「わあ、あれ一番星だよね」とはしゃいでいる。大きな目をくりくりさせながら、表情は明るかった。

「緊張するよお」と彼女は何度も不安を訴えるようになった

しかし、出発から三十分、高井戸インターを通りすぎるころから、「緊張するよお」と彼女は何度も不安を訴えるようになった。「お客さんかっこいい人だといいね」私はホワイトボードに書いた。彼女は「うん、そうだと嬉しいな」と真顔で答えている。八王子第二インターを降りた頃からは、無口になり、とうとう顔を背もたれに埋めてしまった。「やっぱりそんなに不安なもの?」と私は尋ねる。「どんな人かなあって……。相手が障害者だからってのもあるかも」目的地の前に着くと、運転をしていたオーナーが車を止め、ホワイトボードに、「ササキさん、脳性麻痺、言語障害」などの情報を書いていった。「お店の常連客。だけど、それは言っちやダメ」「お金は先に出してもらうこと」「ゴミは持ち帰るように」「出るときにメール。この辺にいると思うけど」「仕事という事を忘れずに。でも、楽しくやる事。ユリナちゃんがつまらないと、相手も楽しめないです」

それから、「おしっこは大丈夫?」と書くと、彼女·ユリナちゃんは「うん」と大きくうなずいた。それでも、「不安だよおぉぉ」と大声で訴え、今にも泣き出しそうだ。オーナーは「ただのスケべオヤジ」とホワイトボードに文字を書き足し、ニヤッと笑った。そして、「じゃあ行ってくる」と意を決したように、彼女は車を下りた。今日は彼女の初仕事だ。「ユリナちゃん」という名前のデビューの日でもある。東京近郊の県に両親と一緒に住んでいる二十歳の大学二年生。青いストライプのシャツに髮の毛を止める飴色のクリップをつけ、ブーツカットのブルージーンズをはいている。ごく普通の大学生にしか見えない。上向きの鼻にくりくりした丸い目、下唇がぽってりしている。

彼女は今、障害者専門の風俗嬢になろうとしている

彼女は今、障害者専門の風俗嬢になろうとしている。所属しているのは「enjoy club」という障害者専門のデリバリーヘルスだ。そして、彼女も耳がほとんど聞こえない一種二級の障害者である。障害者専門風俗店というものができたのはいつ頃からだろうか。二〇〇〇年二月十七日付けの朝日新聞西部本社版に、こんな記事が出ている。

手や足に障害のある人を対象に、女性コンパニオンが性的サービスを提供する―こんな新手の風俗店が福岡市と東京で開業した。客層を身体障害者に限った店は例がなく、店側は「タブー視されてきたニーズにこたえた」としている。「身障者の自由を広げる試み」と評価する福祉関係者がいる一方、身障者団体は「障害者を食い物にした商売」と反発する。風俗業自体が女性を踏み台にしている点にも疑問の声がある。福岡市中央区の「ビアン」(津野喜樹代表)と東京都渋谷区の「エンジェル」(結城薰代表)。ともに改正風営法に基づく無店舗型性風俗業として警察に届け出て、ビアンは昨年十二月一日、エンジェルは一月十七日に開業した。

障害者でも性欲がありますが、性のボランティアをやってみませんか?

障害者でも性欲があります

「障害者でも性欲があります。よかったら性のボランティアをやってみませんか」男はインターネットの掲示板に書き込みをした。何通かのメールが来たが、「障害者がセックスだなんて贅沢だ」というような誹謗中傷が大半だった。掲示板を見てメールをくれた人のうち、実際に会った女性はふたりだ。ひとりは、二十三歳のパソコン専門学校の女性で、一度会って話をしただけで、性のボランティアは断られてしまった。もうひとりは、二十二歳のOL。「当たり前のことだから私が手伝います」とメールには書いてあった。

その数日後、男性はOLと会い、そのままふたりは池袋の障害者トイレに吸い込まれていった。時間がなかったのか、それとも割り切っているのだろうか。OLの女性は恥ずかしがることもせずに、手早くブラジャーをはずし、便座に座った。男は車いすに座っているので、こうするとちょうど高さがあうのだ。そして、男の性器に添えた手を素早く動かしはじめた。「口で舐めて……」男は頼んだが、それは拒否された。

挿入はしないという約束はあらかじめしていた。それはわかっていながらも、入れたいという気持ちがわいてきた。しかし、「ホテルならまだしも、こんな場所で」と思い、言葉にできなかった。外に出ると、空が青かった。連休明けの街はごったがえしていて、幸せそうに見える人々は皆どこかへ向かって足早に歩いている。男は母親が迎えに来ているのを目の端で捕らえた。彼の名を伊緒葵さんという。ふたりはそこで別れた。トイレに入ってから、たった十五分後のことだった。それからは一度も会っていない。

性のボランティアを受けた伊緒葵さんのこと

性のボランティアを受けた伊緒葵さんは一九六七年生まれの男性だ。生まれつき脳性麻痺であり、手足が不自由で、車いす生活を送る。食事から排泄まで全介護が必要な重度の身体障害者だ。手足や顔が不随意で動き、言語障害も重い。彼の言葉は慣れない人であれば聞き取るのが容易ではない。たとえば、「セックスボランティア」という単語を彼の言葉通りに再現すると、「セェェェェ…ウォォ…ク……スゥゥゥゥゥ、ボォォラアアアアア、ンティンティ…ァアア」という感じだろうか。私も何度も何度も聞き返さなくてはならなかった。葵さんは手足が不自由なため、電子メールは、あごの先端でキーをたたく。これでは数行の文章でも打つためには数十分かかってしまうが、インターネットを始めたことで彼の人生は一転した。

実は、池袋のトイレでしたような体験ははじめてではなかった。一九九七年、パソコン通信の掲示板に、障害者の性の悩み相談に乗っている主婦がいた。山本小百合さん、当時三十六歳だ。あるとき、彼女がマスターべーションの介助を申し出る書き込みをした。それを見て、葵さんはメールを送った。十回ほど性についての相談のメールをやり取りして、ふたりは会うことになった。

なぜ障害者に対して性の介助をしよう

当時、葵さんは実家を離れ、都内の施設の四人部屋に入っていた。そこに小百合さんが、夫と子どもふたりを連れてやってきた。気を遣ってくれているのだろうか、小百合さんの夫は子どもを外に連れ出して遊ばせている。夫は性のボランティアのことは知らず、パソコンを教えるボランティアを小百合さんがしていると思っていた。施設の前にある喫茶店に入り、小百合さんとふたりで話をした。「なぁぜ障害者に対して性のぉ介助をしようと思ったのぉですか」葵さんはそれが一番知りたかった。小百合さんは、「私も体を壊して入院したことがあったんです。そのときに、障害を持った方も性を経験したいはずだということに気がつきました」

遠くから子どもたちの遊ぶ声が聞こえてくる。小百合さんは本気なのか、からかいなのか。葵さんにはまだ判断がつかなかった。葵さんは恋愛をしたことはある。二十四歳のときに恋人ができて、キスや抱擁は経験していた。あるとき、挿入を試みたが、入れたとたんにうまくできずに抜けてしまった。それも一回だけのことだった。その後も性器を愛撫してほしい、セックスしたいという気持ちを恋人には話したが、結局は受け入れてくれることはなかった。女性はわかりにくいと彼は思っていた。

小百合さんからの性の介助を受けた

しかし、小百合さんは本気だった。それから三力月後、葵さんは埼玉県にある小百合さんのマンションの一階にあるゲストルームにいた。住人が集会やサークル活動をするときに使用するスぺースだ。八畳の和室が二間あり、半日七百円で住民に貸している。

葵さんは、施設には外出の理由を「友だちとの昼食」と説明し、タクシーでやって来た。小百合さんは部屋の鍵を閉めた。葵さんがよだれをたらしている姿を見て、小百合さんは少し抵抗感を持ったという。しかし、もう引き返せないとも感じていた。そして、着ていた服をスルリと脱いで黑いショーツ一枚になり、Eカップの豊かな胸をあらわにした。葵さんはすでにズボンの前を大きく膨らませている。葵さんは不自由な顔を左右に必死に振って、がむしゃらに乳首を吸った。小百合さんは全裸になり、葵さんのズボンのファスナーを下ろし、手で射精に導いた。手で触ってから、十秒くらいしか経っていなかった。

ふと目をやると、射精を終えたばかりなのに、性器はすでに力強く起立している。葵さんは「もう一度して」とかすれた声で言った。小百合さんは再び彼の性器に指の短い小さな手を添えた。葵さんは時間の感覚がなくなっていくようだった。その晩、小百合さんにはこんなメールを送った。「今日は貴重な体験をさせていただき、ありがとうございました。やはり疲れましたか?またぜひお願いします」そのときの感想を葵さんはこう語る。「自分が射精するところをぉ初めて見ました。手が不自由だぁったので、マスターべーションをしたことはそれまでになかった。三十年あまり、夢精しか経験したことがなかったのぉです」