女性障害者である奈津子さんはどうしてホストを呼ぶことを決意した?

女性障害者である奈津子さんの「王子様」

「王子様」、つまりホストを呼んでいる女性、柏木奈津子さんもこの障害者割引を利用しているひとりである

彼女は二十六歳で、先天性の股関節脱臼という障害を持っている。子どものころから両足の長さが違った。骨を削る手術などによって、歩くことがてきるようになる人もいるそうだが、彼女は生まれつき白血球が少なく、そういった手術も難しい状態なのだという

入退院を繰り返していたため、高校の出席日数は足りなかったが、それでもなんとか卒業はできた。その後は、体調が悪いので仕事にも就けなかった。実家で両親と一緒に暮らし、一日中家にいる。

父親は不動産賃貸業を営み、家には運転手もいるという経済的には恵まれた家庭だ。運転手に連れて行ってもらって、時々外に出ることもあるが、足の痛みが強いときには難しい。また、雨の日など天候が悪いと体調を崩して、寝たきりになる。週二、三回、病院へ痛み止めの注射を打ちに行くのが外出らしい外出だ。

さらに、体力的なことだけではなくて、精神的にもあまり外出は好きではない。外に出ると、 思わず目をつぶりたくなる光景に出くわすからだ。

「諦めないといけないことが多いのが障害者です。外に出ると悲しい。同じ年齢の女性がキレイな服を着て、歩いている。私は足が悪くて、オシャレもあまりできない。どうして自分はこんな容姿なのかと悲しくなる。食べ物でも味を一生知らなければ、その味を求めて苦しむこともない。 性のことも自分とは別の世界のことだと諦めていました

それでも、性に対する憧れはあった。やはり女性として生まれてきたからには男性と話をしてみたい、セックスしてみたいという気持ちは強くあった。

「女性であれ、障害者であれ、人間は誰でも性欲はあると思います。恥ずかしいお話ですが、私も自分で処理はしていました。だけど、やはりそれでは満たされない部分もあって。とはいえ、その性欲をどうしていいかわかりませんでした」

そして、二十五歳のときに初めてホストを呼ぶことを決意する

奈津子さんと「王子様」の出会う

学生時代から障害者ボランティアサークルに参加していた経験のある二十五歳の青年、タカハシさんは、障害者に接し慣れているせいか、奈津子さんの障害についても抵抗がないような素振りで、ひとりの普通の女性として扱ってくれた

「慣れていない人だと、車いすというだけでびっくりしちやって、『どうしてそんなふうになっちやったの』って尋ねてくるんです。私は普通の話がしたいのに、ほかの世界の人みたいになっちやう。その時点で壁が出来てしまうんです。でも、タカハシさんとは普通の話ができます。もし、変な方だったら二度目はなかったと思います。しかし、タカハシさんは女性の外見を気にされない方で、会うと心が安らぎます。セックスをしなくても、ただ会っているだけで楽しい。声を聞いただけで嬉しい。手を握ってくれるだけで幸せです。彼は信頼できるし、身近に感じられる人です」

「恋をしているんですね」と私は言う。奈津子さんは少し間を置く。

結婚しない奈津子さんの考え

「ホストを呼んでいることは父も母も知っています。この子はこんな体だから一生恋愛も結婚もできないだろう。不憫だからって話しています。やはり結婚はしないと思います。私は自分のことだけで精一杯です。例えば、好きな人のためにご飯を作ることも、洗濯することもできません。好きな人の悲しい顔を見るのが一番辛いですよね。愛している男性にずっと一生車いすを押してもらうのは忍びないんです。それに、もし子どもができてもなにもしてあげられません。親が病気になっても看病さえできない。病院へ連れて行くこともできない。私にはなにひとつできないんです」

奈津子さんは沈んだ声で、しかし、淡々と話す。私は彼女の気持ちを思うと、胸が苦しくなった。

恋愛や結婚は諦めて、彼女はホストを呼ぶという選択をした。しかし、お金で性を買うことに対してはどう思っているのか。男性よりも女性のほうが抵抗があるのではないだろうか。「やっぱり同じ人間なんです。障害のある人でも感情はある。本当はこうやって性をお金で買うことは悪いことなのかもしれない。でも、私には他に可能性がなかった。どんな方法であれ、こういう機会があったことは良かった、とこれからもずっと思えるでしよう。恋愛や性の機会がない人もいるんです。性の商品化とかなんとか、周りの人は、いけない、いけない、と言っているかもしれないけれど、少しでもその人が笑える可能性があるのなら、許されてもいいんじやないかと思います」

女性客の指定した場所に出張し、性的サービスを行う出張ホストクラブ

明日は恋する王子様がやってくる

前日は一日中、鏡に向かう。ネイルアーティストを呼び、色とりどりに爪を塗ってもらう。丁寧に紅を引き、目の上には今年流行の色を入れる。この日のために雑誌で最新のメイクを研究している。それからは、何度も「おかしくない?」と周りの人に確かめる。外出する機会が少ないので、これでいいのかどうか世間の基準がよくわからず、不安なのだ。念入りに風呂に入り、着る服を選ぶ。明日は恋する王子様がやってくる。

彼は午後四時ごろ、家にやって来た。両親も公認の仲だ。まずは、ゆっくりと一緒に風呂に入る。湯船につかり、近頃あったことやドラマの話などとりとめのないことをのんびりと話す。スポンジに泡を立てて、丁寧に体を洗ってくれる。風呂から出ると、体を拭いてもらい、お姫様抱っこで、ベッドまで運んでもらう。彼は力持ちだから、軽々と持ち上げてしまう。そっと彼女の手を取り、優しく髪をなでる。ふたりは時間をかけて、ゆるゆると結ばれる。

いつも片想いで終わり、恋が実ることは一度もなかった

彼女は王子様のことが大好きだ。手を握ってもらうだけでも嬉しいし、顔を見るだけでもホッと落ち着く。今まで出会ったなかで、最高の男性だ。これまでにも恋をしたことはあった。しかし、いつも片想いで終わり、恋が実ることは一度もなかった。テレビドラマを見ても、「こんな世界があるんだ」と遠い異次元のことのように感じていた。

「今度はどこかへ遊びに行ってみようよ」彼が低い声でささやく。一緒に出かけられたら、どんなに楽しいだろうか。胸は高鳴る。そして、あっという間に二時間がたってしまった。週に一、二回しか会えないのがとても寂しい。「またね」爽やかに言葉を残して、王子様は帰って行く。魔法は解けてしまった。彼女の王子様、それは出張ホストである。

彼女の王子様、それは出張ホストである

出張ホストクラブというのは、男性が女性客の指定した場所に出張し、性的サービスを行う風俗店のことを指す。もちろん、デートだけで終わる人もいるかもしれないが、通常の店舗型のホストクラブとは違い、客はあきらかに性的サービスを求める女性が多い。

都内で営業する「セフィロス」のホストを指名するためのファイルを見てみると、年齢や顔写真などと一緒に、「得意技」や「性器の長さ〇〇センチ」などという項目がある。十八歳から五十七歳まで約二百人のホストの登録があり、ほとんどが本職を持っている。ホストの登録料は三万円。四年間登録していても、一度も仕事のない人もいる。このホストクラブが特異なのは、障害者の客には割引があることだ。通常は一時間一万円の料金が、障害者であれば一時間五千円になる。

障害者のお客さんの場合は、店の取り分はゼロです

オーナーの吉良仁志さんによると、「普段は店とホストと分け前は半々でやっています。ですが、障害者のお客さんの場合は、店の取り分はゼロです。出張ホストはあまり人に誉められるような商売ではありません。こんなことくらいしかできませんが、社会のために少しでも役に立てばと思い、障害者への割引を始めたんですよね。なんていうか、人生の帳尻を合わせている感じでしょうかね

吉良さんにはホストの経験はない。大分県の高校を卒業後、東京でとび職の仕事をしていた八年前にその仲間とホストクラブを始めようと思いついた。ホストのイメージとはほど遠い、アウトドア派といったいでたちである。実際、釣りが趣味で、世界のあちこちに釣りをしに行っている。店のホームぺージの壁紙には、ホストクラブにはあまり似つかわしくないような、かわいらしい魚のイラストが使われている。口コミだろうか。あるときから、障害者の客が増えてきた。しかし、障害者に接した経験のないホストではなかなか対応しきれない。そこで、知り合いだった障害者ボランティアの経験のある男性をスカウトしてきた。